製造業のデータモデルとは?それは製造現場の緻密な分析をすることで定義できる

なぜ知識とBOMの関係を考えることが必要なのかであるが、それは、最初のデジタル化される情報は設計が作成するBOMであるからだ。これが、ものづくりの情報の原点であるからだ。そして、この原点を起点に企業の関係組織のデータへと拡大されていくからである。

 もちろんBOMが完成するのは設計が図面を描いた後半分の期間であるとの意見も出るだろう。しかし、部品の共通化、加工工程の改造をミニマムにして投資を押さえる、既存の加工技術を採用することで素早い製品化と品質の安定を狙うなどを考えるならば、既存のBOMのデータを活用して図面を作成する手続きが自然である。

 既存のBOMを設計者が活用するならば、部品表の品番や品名だけでなく、生産の状況や市場での品質、製造原価などを知りたくなるはずである。

つまり、大きなPDCAが部品表に始まり、デジタルレビュー、試作、生産、市場品質を経て、次期製品開発にフィードバックされなければならないはずである。BOMは企業で用いられる基本的な分類なのである。

 無機質な英数字を主とした表記のBOMを見ただけで、その形状や工程を想像することは誰でも可能ではない。自分の専門分野のことしか想像できない。そこでものづくりの知識や品質の問題をどのように記録するかを考える必要が出てくる。誰でも書き込むことのできる方法はなんだろうか。それは図面になる。CADではない。この理由については後述する。どんな機能の役割の人であろうとも、その図面にその知識を書き込むことはできるはずである。製造現場の人が図面に書き込みながら作業をする姿を見たことがないだろうか。

 些細なことかも知れないが、ものづくりに対して、現場の作業がどのような配慮により図面に忠実に行われているかを知ることは、図面を描いた設計者は知らなければならない。しかし、海外の生産など場所の遠いところでの現場に仕事は知ることも難しい。それを知りたいという意識を持てば、そのことを実現する方法を考えるようになるはずだ。企業の知識継承をするならば避けて通れないことでもある。

 結局、エンジニアがニーズを発見するには、現場で起こっている問題を知ることであり、問題を知ったら、その原因を究明することであり、原因が分かったら、その対策をすることである。そして、設計者は二度と同じ失敗を繰り返さないことである。良い設計者とは、人としての倫理観をしっかりと持った者であって欲しい。それには過去の失敗を社内で共有していなければ、安全と品質のマネージメントは機能しないであろう。

製造業のBOMはものづくり情報の一部。データをつなげる基本となり得るか?

BOMはデータの作り手に依存したものであることの理解が必要

BOMは組立型の製品に用いられる部品表のことを言う。部品表は設計者が作成するものである。この部品表は、各社の個性が反映されている。個性というと聞こえは良いが、古くから運用している部品表の記述ルールにいくつか問題が出てきては、対処しているのが現状だと思う。


 品番の付与がその桁数と英数字の組合せだけでは不足している。その結果、品番が持っている意味が部品名を想像できない混沌とした状態になってしまった。また、工場内でのアッセンブリを、外注化し、アッセンブリされた1つの塊としての品番として表現をすることを区別できない。塊としてしか仕入先は納入しないために、塊の中に含まれている部品に品番が付与されていないなど発生している。

細かな管理に発展すべく必要なことを見通していること

 生産や調達先の変更、生産量の増減への内外製の変更など予見できることへの配慮が昔のシステムでは考慮されず、一方で、修理のための補給部品の品番体系を維持するために大きな部品表の記述ルールを変更できないなどで困っていることも出てきた。それへの対策が根本的であるかどうかが将来に継続利用ができるかの分かれ道になることもある。

BOMとEBOM、、BOMはエンジニアリングデータとはならない

 かつて、設計者と調達との間で取り決めてきたルールは、その後のBOMの活用部署の拡大と共に、BOMへの要求事項が追加され変化してきた背景がある。その経過の中で、謂わゆるEBOMとMBOMの連携についての議論もあった。また、この2つの統一とすべきとの統一BOMの議論もあった。このどちらの議論についても、私は異なる意見をもち続けている。

 まず、EBOMとMBOMと言う名前がおかしい。単にBOMで設計のための部品表で良い。製造にはBOMというものはなく、工程管理システムと呼べば良い。ましてや統一BOMなどはその利用用途からコンセプトとしては考えようがない。工程管理は先に述べてように、内外製の変化、加工工程の変更など、ものづくりの生産性を向上させるために作業の組合せを工程を跨いで行う必要性に合致しないためである。

システムは何故それが必要であるかを明確にして、しっかりと機能を構築すること

 ものづくりで工場が必要なシステムは工程管理(MES)であり、それを実現すれば良い。その工程管理システムとBOMをどのように連携させるかを付け加えて考えるべきである。下位のシステムである工程管理システムをどのようにするかの議論もなく、MBOMや統一BOMの議論は意味のないことだと述べておきたい。

 知識の記録方式を考えるにあたり、ものづくり企業においては、BOMと言う品番や製品仕様のデータと知識データをどのように扱うべきか考えておくのかは大切なことである。次回は、この続きを述べたいと思う。

製造業がDXでつながるデータ構造を設計するには?

業務全体を扱えるようなデータの保管の構造は、前に述べた品質(製品の目的や機能)から派生した構造が良い。この構造であれば、後のプロセスで必要とされるデータ項目との関連性をつけていくことが容易である。これらのデータを見る方法としてものづくり支援システムでは3つの基本画面が必要だ。

 部品の構成から仕事をする人は、部品の構成イメージ図から仕入先や品質項目あるいはその生産工程を求めれられるようにする。

 また、品質の分類から仕事をする人は品質管理イメージ図から関係する部品やそのサプライヤや生産工程が情報検索できる。

 一方、生産工程の分類から仕事をする人は生産工程の関係部品や工程での作業や使用設備、品質規格などをみることができるようにする。

 このような3つの側面からどの仕事をする人でも全体を見て仕事の意思決定ができるような全体最適意思決定を可能にするアプリケーションとなっている。

 部品の構成(BOM)から情報を検索しても、品質(性能)の分類から情報を検索しても、生産工程の分類から情報を検索しても、それぞれが他の分類の該当情報に相互に検索ができる必要がある。このことを可能にするには表の定義と関係性では変化する分類に対して固定化せざるを得ないために、業務変更には向かない。

 システムを開発するときには、個別組織や特定業務の個別システムとなる方が簡単であるがゆえに、限界を決めて構築してきた。本来ならば、企業の生産性を向上させるために、先のような3つの分類(設計、品質、生産)を絡めて情報検索ができる方式の実現を大きな課題と捉えて、解決してこなければならなかったはずである。

 物づくりにおける全体最適なシステムを作るには製品開発から生産までの全体を考えたシステム構築を基本に考えるべきである。それは、直接部門(生産)の生産性を向上させるには管理間接部門の生産性を高めることが必要である。製品企画段階の製品開発初期には全体最適を考えているはずである。それが、開発が進むと関係組織が増え、関係者も増加してくる。そのことにより、単純化した検討や考え方が失われて、部分の難しい判断をお互いに異なる価値観にて議論を繰り返す状態を発生させているのである。

 生産段階に近くなるとますます、部分最適になっていく。製品開発初期段階は製品も品質もコストも考え抜き、生産工程も考え、しっかりと検討する。このフェーズの仕事には全体最適を行うためのデータ項目が存在している。

 生産段階になると部分的であり派生的なデータ項目のみが取り扱われる。これは他のデータ項目は管理上不要になっただけであり、全体品質やコストを把握するには全体データ項目が必要である。

 工場が管理する部分的なデータ項目では生産全体の経営につながるデータの集計ができず、経営の意思決定が遅れることになる。工場の指標と経営指標が連動しないのは、このように上位から下位までのデータの関係性と粒度の変化をしっかりと定義しないことに起因しているのである。

製造業のDXを始める前に知るべきこと、データが生まれる起源とは

DXデータが作られる最初のタイミングと範囲


 ものづくりにおいて、つくられるデータ項目はその仕事が開発フェーズや工場管理フェーズなどにおいて、仕事の進度によってデータ項目は追加される。
しかし、新しく出現したデータ項目であっても、そのデータ項目は他のデータ項目の細分化された一つであったり、計算された結果であり、派生的なデータ項目であるはずである。そうで無ければ、達成したい目的とは全く無関係な仕事をしていることになる。

 このように、データ項目は当初の品質目標とコスト目標から派生し、その実現のための方法を表現するデータ項目に変化していくことになる。例えば、工場における保全の仕事を考えてみる。保全の仕事の一つに設備の故障対応がある。

この故障対応を支援するシステムを考えるに、故障発生した時間から行われる業務を列記すると、故障の発見、報告、現象把握、問題の大きさ認識、報告、緊急処置、確認、報告、原因の追究、対策の決定、再発の防止、報告などに関するデータ項目を選定するはずである。では、これらの仕事にどのような基本的なデータ項目が語られることになるかについて考えてみる。

設備に関するデータの発生起源

 例えば、この設備はどのような加工を行う設備であるかやその為に守られなければならない点検項目は何であるのかを知りたいはずだ。また、その点検項目はどのような製品品質規格を守るために行わなければならないかなども知る必要が出てくる。これらのデータ項目は設備の保全者であっても、ものづくり企業では当然知っておくべきことである。  

 更に、設備設計の仕事を支援するシステムと関係があることは容易に推察されるはずである。何故、このような設備設計仕様となったかを知りたくなり、その再発防止を前工程に働き掛けることになる。それは設備標準仕様書などに反映して、管理者のチェックポイントになる。

 設備設計の業務では、その設備が必要であることを決めた製品開発時点でその設備名称が生まれる。しかし、その設備の必要性は、製品設計における部品の形や材質などの決定により生まれるものである。その製品の機能実現のために必要な品質規格やコスト目標を達成するために生まれてきたものである。

 このようにデータの生まれるタイミングと関係性について記述したが、物づくりにおいて、データは多くの仕事のインプットであり、アウトプットである。インプットからアウトプットに転換する際に、考え方(ロジック)が必要であり、生産性の高い工場にするには、さらに自動化が必要となる。

N対Mのネットワーク

しかし、重要なことはこのインプット、アウトプットの表現に使われるデータ項目とデータ項目間の関連性である。これらは、一対一ではなく、n対mの関係にあり、個別の数値だけ見ても、別な項目まで見なければ結論に至らない。その意味で、企業の中は単純化を意識し続けなければ、生産性の低下する複雑な仕事が多くなり、コストがアップしてしまう。

ものづくりのDXシステムは全体最適に構築すべきその理由とは

ものづくりに必要な仕事は製品開発・設計、実験、試作、部品・設備調達、工程設計、生産、検査、物流などである。仕事の一つが欠けてもものは造れない。その為、これらの仕事が効率的に推進できるように組織は構成される。 
 しかし、市場の環境変化に沿って組織は改造される。ただし、情報システムは組織とは無縁に造られるものでなければならない。組織変更の都度の情報システム改造投資を避けなければならない。

 製品を開発する人、その開発した製品の図面を見る人、試作品を評価する人など、ものづくりに必要な仕事は全て人で行われている。そこでは、仕事が自動で流れることは無い。あくまでも、仕事をする人が考え、適切な組織に相談し、その結果を他の組織に伝えることが行われる。その間、生まれた情報を受け渡ししていく。

 したがって、ものづくりのシステムとは、部分だけを対象としてもうまくいかないのである。効果も出にくいのである。部分の仕事を対象にシステム化するとそのシステムを動かすためのデータを入力しなければならない。そして、その入力を最小限にしたいがために、システム化対象を狭め、個々の組織や部分の仕事にだけ活用できるシステムが造られていくことになる。

 仮にこのようなことが多く行われると当然、いわゆるスパゲッティ状態になるわけである。しっかり硬いスパゲッティなら他方を引けば他方が動くが、そうではなく、他方を動かすと余計なものが動くとか、何も動かなくなっていく。経営者が嘆きたくなるような結果に至る。このような状態にあることは、全体を見抜こうとするシステム設計者の力不足であると思う。

 整理統合しようにも、もはや個別システムを前提に仕事の進め方を標準化してしまっており、一度に同時にシステムを直さないといけないことになる。結果、手のつけようも無い状況となる。これでは人の為に役立つ情報システムではなく、全体的にみると、かえって生産性をダウンするシステムになっている。それを解決するには、物づくり全体の仕事に対して、活用できるデータを定義することが重要である。

 残念なことに、2010年ごろまでは、ものづくり全体をシステム化させようとの動きがなかった。その後も、industry4.0とかのワードが流入してきても、個別システムに動いているように見える。今後も、企業がこのような意識では、形式的なIT活用に留まってしまうのではないかと大変心配である。

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